第6章 4.決断
「【名前】?」
「え?」
すると不意に名前を呼ばれて驚いて声の方を向くとそこには私服で手に買い物袋をぶら下げた白石くんが立っていた。
彼は軽く手を私に向けてあげてからベンチの傍まで歩いて来てくる。
「こないな所で何してん?」
「えっと…気が付いたら近くにいたから、公園のベンチに座ってて…砂場眺めてたの」
「なんやそれ」
なんて言って良いか分からず私が正直にこの公園のベンチにいた事を告げると白石くんは笑った。
そして『隣ええか?』と聞かれたので私が頷くと白石くんも私の隣に腰掛ける。
ベンチはそれなりの長さがあったと思っていたのに、思ったよりも白石くんと私の距離が近くて私はドキドキしてしまう。
「…あのね、この公園が私と遥斗が初めて金太郎くんに出会った場所なの」
「そうやったんか」
そこで会話が途切れてしまう。
何か話さなければと内心焦ってしまう。
でもこの無言の空間で焦ってしまう気持ちの方が大きいはずなのに、何処か心地良いとも感じてしまう私もいて、やっぱり白石くんと一緒にいるのは心地良いなと思った。
「…あのな」
先にその静かな時間を破ったのは白石くんの方だった。
「昨日の事なんやけど…」
少し言いにくそうに白石くんが話し始める。
昨日と言われて思いつく内容はテニスコートでの出来事だった。
「本音を言うとな、俺は【名前】にマネージャーして欲しいねん」
「え」
「でも無理強いはしたくないんや」
白石くんの言葉に驚いて隣を見れば苦笑している。
その表情で白石くんは私をからかったりしているわけじゃないと確信する。
でもだからと言って私の中でテニス部のマネージャーを誘われた事に対して納得することも、マネージャーをする意欲も凄い勢いでは湧き上がる事がなくて悩んでいた。
だからこそ、白石くんに私の疑問が漏れてしまう。