第3章 2.不思議な人
そんな彼女の笑顔が私はとても好きだった。
「綾子ちゃん」と私が呟いた次の瞬間、場面が急に転換する。
そしてその変わった場面は私が1番思い出したくない記憶だった。
「――っ」
いつの記憶か直ぐに分かってしまい私は息を呑む。
今の私の目の前で、男子達に小突かれてふらりと小学生の私がよろめく。
それを見た小学生の綾子ちゃんは怒って彼らに対して走って立ち向かおうとする。
それに気が付いた彼らは綾子ちゃんを――。
「やめて!!」
私はもう二度と見たくもない場面に目を手で覆う。
それでも小学生の時に目の前で見てしまった出来事は、今もこうして私の夢の中で繰り返し再生される。
その度にやめて欲しいと懇願するが、何度でもこの夢は私を解放してくれる気はないようだ。
見たくない
助けて
声にならない声が私の中を駆け巡る。
それでも最後までこの場面を見終わらないといつも夢から覚めてくれないのだ。
それが私への罰なんだとも思った。
自身のその気持がまるで悲劇のヒロイン気取りで更に嫌になる。
自己嫌悪感がこの夢を見る度に増していくのを私はヒシヒシと感じていた。
「―――」
自己嫌悪で押しつぶされそうになった瞬間に、ふと…誰かが私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
目を覆っていた手を離す。
気がつくと先程までの場面は何も再生されていなかった。
何もない無の空間に私が立っているだけだった。
どうして良いか分からず立ちつくしていると、またも優しく…でも私を心配している声がする。
誰だろう?知らない誰かが私を呼んでる。
――違う
私はこの声の人を知っている。
「…【名字】さん」
私の事を呼んでる人。
その人は私を優しく呼んでいたのに、いつまでも起きない事に焦ったのか切羽詰まった声音に変化していく。
「【名前】!」
あぁ、そうだ。
私はこの人の声を知っている。
心配そうに私を呼び、優しく揺さぶってる。
きっと引き戻そうとしてくれているのだ。