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第2章 静かな闘志


宿泊施設の近くには川が流れていて、その横には穏やかな道なりに沿ってサイクリングロードがある。今はもう夕方だが景色は明るくて風は生温い。蒸し暑い空気を吸い込みながら川辺の道を藤真と一緒に歩いていく。


「暑いよなー。神奈川も暑いけどここよりマシな気がする」
「確かにね。明日のスタミナも心配だよ」
「…先輩」
「ん?」


藤真はふと足を止めると私の目を真っ直ぐ見つめて、一度ゆっくりと深呼吸をした。温い風がお互いの髪を揺らし、私は藤真のサラサラとした髪に目を奪われる。


「俺、勝つから。神奈川で優勝できなかった分、全国では絶対に負けない」
「藤真…」


藤真は入学してからずっと海南大附属に勝ったことがない。同じポジションにあの天才児・牧紳一がいたからだ。うちは海南とは相性が悪くて昔から負け続けているらしいけど、牧紳一が入部してからは練習試合ですら一度も勝てていない。藤真にとってはこれ以上ない屈辱だろう。


「もうこれ以上格好悪いところは見せられない。このインターハイが最後のチャンスだから」
「…?…何言ってるの。藤真は来年もあるでしょ」
「ほんと手強いよな、先輩」


額に手を当てた藤真が急に笑い出したから、私は不思議そうに見つめるしかなかった。…何がそんなに面白かったんだろう。まあでも調子は良さそうで何よりだ。藤真は唯一の2年生レギュラーだけど、ゲームメイクの要だ。活躍してもらわないと困る。


「藤真、勝とうね」
「当たり前だろ」


私が掲げた手のひらに、藤真が合わせてタッチをする。今までしてきたハイタッチの中で一番力が強くて、手のひらはずっとジンジンと熱を持っていた。
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