第32章 【幕引き】
誰も何も言わなかった。少なくとも、ハリー、ロン、クリス、ハーマイオニーの4人は頭の回転がついていかず、何も言うことが出来なかった。
スキャバーズ、もといピーター・ペディグリューはどうにかこの状況を打破しようと考えているようだ。その仕草はまるでネズミの様だった。手を縮こませ、小さな目をぐるぐる回している。
「やあ、ピーター」
まるで軽い挨拶をしているかのように、ルーピン先生が笑いかけた。ピーターは何か言葉を探していたが、やがて冷や汗を流しながら、ルーピン先生に向かって引きつった笑いを浮かべた。
「リ、リーマス。シリウス……懐かしき、わが友よ……」
「ハッ!貴様に友呼ばわりされる筋合いは無いなっ!」
ブラックがピーターに詰め寄ると、ルーピン先生が鋭い視線でそれを制した。それから先生はまた笑顔に戻り、ピーターに向き直った。
「今ジェーズムとリリーが死んだ夜の事を話していたんだ。何が起こったのかをね。君はキーキー鳴いていたから、細かい所を聞き逃していたかもしれないね」
「リー、リーマス……君はブラックの言う事なんて信じていないだろう?あいつは、あいつはジェーズムとリリー同様、私を殺そうとしたんだ」
「そう聞いているよ」
先生は笑顔だった。しかしその笑顔が氷の様に冷たかった。こんな先生を見るのは初めてだ。
ピーターはここからどう逃げようか模索しているようだった。キョロキョロと辺りを見回したが、窓は全て板で打ち付けられ、唯一のドアも今はしまっている。逃げられないと思ったのか、突然ピーターはルーピン先生の足元に縋りついた。
「リーマス、聞いてくれ!また私を殺しにブラックがやって来たんだ!!あいつはジェーズムとリリーを殺しただけでは飽き足らず、私まで殺そうとしているんだ。助けておくれ、リーマス……」
「安心してくれピーター。話しの整理がつくまで君には傷1つつけないよ」
「し、しかし――」
ピーターはシリウスを見た。シリウスは今や12年間の恨みを晴らそうと窪んだ目の奥からピーターを睨みつけていた。ピーターはそれを見てシリウスを指さした。
「見ろ、こいつの眼を!普通じゃない!!こいつはアズカバンで正気を失ったんだ。でなければあんな作り話を思いつくはずがない!!君なら信じてくれるよね?リーマス?」