第28章 【シリウス・ブラック】
いったいどんな化け物が住んでいるのだろうか。そして何故、あの犬はロンをここに連れてきたのだろう。まるで『暴れ柳』の根元の穴が、ここに通じていると知っているような感じだったが――。
何が出てもおかしくはない。クリスは杖を構えたまま、感覚と言う感覚を全て研ぎ澄ませた。
するとその時、上の方からギシ……ギシ……と何かが動く音が聞こえた。3人は顔を見合わせ、隣りのホールに移ると足音を立てない様にゆっくりと慎重に階段を上って行った。
そして踊り場につくと、もう1度顔を見合わせ、杖明かりを消した。
暗く、淀んだ空気の中で、3人は息を殺してドアに耳を近づけ中の様子を窺った。ドアの向こう側からは、低いうめき声と、太いゴロゴロと言う声だ。3人は3度目となる顔を見合わせ合図をすると、一気にドアを蹴破った。
「ロンッ!どこだい!!?」
「助けに来たわよ!!」
「……ハリー、駄目だ。来ちゃいけなかった……」
部屋の中心にある、天蓋付きの大きなベッドに、ロンが座っていた。その傍でクルックシャンクスが寝そべっている。3人は急いでベッドまで駆けつけた。
「ロン、大丈夫?」
「駄目だ、3人とも早く逃げて……」
「何を言っていいるんだ。逃げる時はみんな一緒だ」
「そう言えば犬はどこに行ったんだい?」
ハリーの質問に対し、ロンは大きく目を見開き、顔面蒼白で小さく呟いた。
「犬じゃない、ハリー、これは罠だ」
「何だって?」
「あいつが犬だったんだ。あいつは――シリウス・ブラックがあの犬だったんだ!」
その時、背後のドアがバタンと勢いよく閉まった。
振り返ると、ドアの前には真っ黒い汚れた髪を肩までたらし、血の気のない痩せこけた体をした男が――目をギラつかせながら、ハリーを見て不気味に微笑んだ。