第24章 【ハーマイオニーの変貌】
トレローニー先生の声に、皆が何だ何だと近づいて来た。パーバティとラベンダーが恐々見守る中、先生は水晶玉と鼻がくっ付きそうなくらい顔を寄せた。
「何かが蠢いているわ……何か良くないもの……闇に染まった、これは――死神犬の……」
「いい加減にしてよ!また例のグリムなんて言うんじゃないでしょうね!!!このインチキ占い師!」
ハーマイオニーが立ち上がって、トレローニー先生を睨みつけた。するとトレローニー先生も立ち上がり、ハーマイオニーの事を恨みのこもった目で頭のてっぺんからつま先までじっくりと眺めた。
トレローニー先生が大きく息を吸うと、プルプル震えながら一気にまくし立てた。
「貴女にこんな事を言うのは、あたくし大変残念だと思ってずっと黙っていましたけれど、とうとう言うべき時が来たようですね。貴女には、そう、神秘の眼を必要とするこの『占い学』の才能が“全く”と言って良い程ありませんの!貴女の眼は俗世に染まりきっています!あたくしこの学校で長い事『占い学』の教師をやっておりましたけど貴女ほど才能のない生徒は初めてです。それでもいつかは『内なる心』を開いてくれると願っておりましたが、全く無駄の様ですわね!」
トレローニー先生の演説が終わると、教室の中がシーンと静まり返った。今や誰もがトレローニー先生とハーマイオニーを見つめている。ハーマイオニーは一瞬きゅっと唇をかみしめると、「未来の霧を晴らす」の本を拾い、思いっきり壁に投げつけた。
「結構よ!」
ハーマイオニーはカバンを振り回す様に乱暴に肩にかけると、トレローニー先生を睨み返した。
「もう良いわ!私、こんな学科辞める!金輪際この教室には足を踏み入れないからそう思って!!」
それだけ言うと、ハーマイオニーは撥ね戸を蹴とばして開け、梯子を下りて姿を消してしまった。あの優等生が服を着て歩いていると揶揄される程のハーマイオニーが、教師と喧嘩して学科を辞めた。あまりのショッキングな出来事に、誰も追いかける者は居なかった。
「今日のハーマイオニー、何か変だよな?」
「変と言うより……あれが本性なのかもしれないぞ?」
人間、追い詰められた時ほど本性が現れると言うが、今日のハーマイオニーの方が本性だとすると、やはり1番怒らせてはいけない人物はハーマイオニーであると、クリス達は思い知らされたのだった。