第23章 【胸の棘】
とうとうロンの姿が見えなくなると、クリスは焦りと不安で胃が痙攣を起こすんじゃないかと思えた。こんな事になるなら、ハリーのホグズミード行きを許すんじゃなかった。しかし今は後悔している場合ではない。クリスは懸命に足を動かし、息を切らしながら何とか城にたどり着くと、玄関ホールでハリーとロンの姿を見付けた。
「良かった、ハリー……ばれなかったんだな」
「ちっとも良くないよ……『忍びの地図』はルーピン先生に没収されたし、それに――」
「それに、なんだ?」
「ルーピン先生に言われたよ。ディメンターに近づいた時に聞こえる声……僕の両親が、命と引き換えに僕を守ろうとしたのに、僕がシリウス・ブラックの事を真剣に受け止めもせず、馬鹿みたいにホグズミードに遊びに行くなんて、あまりにお粗末だって――」
「ハリー……それは……」
それ以上、クリスは何も言えなかった。ハリーがホグズミードに行こうとしたのを止めなかった自分も同罪だ。クリスはまた胸に棘が刺さった様な気分がしてきた。それはロンとて同じことだった。ロンは拳で壁を殴りつけた。
「全部僕が悪いんだ。ハリーに行けって勧めたのも僕だ。ルーピン先生の言う通りだ、バカだったよ、本当に。こんな事するべきじゃなかった……」
後悔の念に駆られている3人の前に、見知った影が現れた。他の誰でもない、ハーマイオニーだった。ハーマイオニーは何とも言えない表情をしている。もしかしたら、ハリーの事を聞きつけたのかもしれない。
クリスはハーマイオニーに合わせる顔が無かった。折角仲直りしたばかりだと言うのに、ハーマイオニーの忠告を無視したのだ。マクゴナガル先生に言いつけられて罰則を与えられても仕方がない。
「ハーマイオニー……その、すまなかった」
「どうして謝るの?」
「ハリーの事を聞いて来たんじゃないのか?」
「違うわ、私が言いたいのは――」
ハーマイオニーはそこでいったん言葉を切った。そしてすうっと息を吸い込むと、真っ直ぐこちらを見ながらこう言った。
「ハグリッドが敗訴したの。バックビークが……処刑されるわ」
それを聞いて、本当に言葉が出なくなった。
胸に刺さった棘から一気に毒が溢れ出し、クリスの心を闇で満たした。