第18章 【ナミダ・ナミダ・ナミダ】
「ありがとう、お前ぇさん達の言う通りだ。俺がしっかりしなきゃ、誰がバックビークを守るんだ」
「その意気だよ!」
「最近の俺はどうかしてた。――皆、俺の授業は好かんし、その上バックビークは訴えれれるし、それにディメンターの奴らだ。あいつらが傍にいると思うだけで、俺は身震いがしてアズカバンに戻されたような気分がする」
何かを思い出す様に、ハグリッドは遠い目をした。そんなそぶりを全く見せた事がなかったが、去年、ハグリッドはアズカバンに収容された事があるのだ。4人はまだその時の事を聞いたことが無かった。みんな遠慮がちだったが、今がアズカバンがどんな所なのか直接聞く良い機会だと思った。
「ねえ、ハグリッド……アズカバンってどんな所なの?」
「恐ろしい所だ――例え1日でもあそこに居るだけで気が狂いそうになる。酷い思い出ばかりが蘇り、気が沈んで、生きて行く気力さえ奪われた。もう死にたいと何度考えた事か……釈放された時は、目にする何もかもが光り輝いて見えた。本当に生き返った気分がした」
それからハグリッドは一旦言葉を切って、バックビークを見た。バックビークはお腹がいっぱいになったのか、ハグリッドのベッドですやすや眠っていた。
クリスはバックビークを間近で見るのは初めてだったが、鋭い鉤爪と大きな嘴は確かに危険そうに見えたが、こうやって眠っている分には大人しくて害のない動物に見えた。ハグリッドが選んだ生き物にしては、かなりまともな部類に入る。
「俺は、本当はバックビークがこのまま逃がしてやろうと何度の思った。遠く、役人どもの手の届かない所まで――だけんど、そんな事をしたら法律を破ることになる。俺は……俺は……法律を破るのが怖い……俺はもう二度とアズカバンには戻りたくねぇ」
ハグリッドは思い出したように暗い顔をして、またぽろぽろと涙を流した。膝の上に顎を乗せていたファングが、心配そうに「クゥ~ン」と鳴いた。まるでそれは4人の心の中を現しているかのようだった。