第4章 Dawn
昼休み。何やら今日は皆落ち着かない様子だ。
どうしたのかと八百万さんと梅雨ちゃんに尋ねると雄英体育祭が開催されるのだと教えて貰った。
「体育祭かあ……」
「綿世さん、お互い頑張りましょうね」
「うん!二人ともありがとう」
学食に移動すると既に人でごった返していた。これは完全に出遅れたなぁ。うっかり男の子にぶつかりでもしたら迷惑をかけてしまうだろう。仕方なしに混雑が緩和されるまで隅っこで待つことにした。
「お前、ヒーロー科の……担架で運ばれてた奴」
「えっ!あ、えと……」
「ここで何してんだ?」
「ご飯買いたくて、列が空くのを待ってるの」
紫の癖毛と目の下の隈が印象的な人だ。
USJの記事や映像に映ってしまったのだろうか。
簡単に事情を話すと、彼は私の話を聞くなり鼻で笑った。
「男がだめでヒーローになれるの?ヴィランは圧倒的に男が多いのに。ヒーロー科、辞めた方がいいんじゃない?」
「うっ……それ相澤先生にも言われたよ。でも、少しずつ治ってきてる感じなの!何よりヒーローになりたいから、やめないよ!」
雄英に合格するためにめちゃくちゃ頑張ったんだ。学校に行かない間、ひたすら勉強とトレーニングの日々。肉体的にも精神的にもハードだった。
私を救ってくれた名も知れぬヒーローの背中だけが支えだった。あの人の背中を目指して私はここまで来たんだ。諦めるわけにはいかない。
「ふーん……じゃああの中、飛び込んでみなよ。ヒーロー目指してるんだろ?」
「それは……」
「出来ないの?はっ、そんなもんなんだ。ヒーロー科って」
「出来ないんじゃなくて、しないんだよ!私が飛び込んで、個性暴発して、誰かが怪我してしまったらどうするの?誰かを傷つけてしまうくらいなら、私ご飯いらない。そんな試すようなこと言わないでください」
その人に背を向け、震える手を抑えてその場を立ち去る。
悔しい。なんで知らない人にあそこまで言われなきゃいけないの。──ううん。知らない人だからか。彼は一般人としての意見を述べただけだ。
襲いかかる自己嫌悪の念を振り払うように頭を横に振った。
次会ったら、謝ろう。図星突かれて声を荒らげてしまったこと。
きゅうと鳴くお腹にしっぺして教室に戻った。
そして、午後最後の授業終了のチャイムと同時に、私はまた貧血で倒れ保健室行きになってしまったのだった。
