第1章 桃
キコキコと音を立てて缶詰を開けた。
途端に広がる甘い芳香。
私はフォークを手に取った。なぜって缶詰の蓋はギザギザと尖っていて、手で触るには怖すぎるから。だからフォークで押し開ける。
そうして溢れんばかりのシロップの中にフォークの切っ先を沈めた。ズブリ、という手応えを感じ、持ち上げる。
黄色く丸く柔らかなそれが出てきた。
黄桃。
私は包丁で切った黄桃をヨーグルトに沈め、夫の前に出した。食後のデザートのつもりだ。
「黄色い桃ってガキ臭くないか?」
私の夫は黄桃入りのヨーグルトを見るなり、そう言った。
「え…そうかなあ。私は黄桃が好きなんだけど」
缶詰の黄桃は子供の頃からの好物だ。ガキ臭いなんて思ったことはないんだけど。
「やっぱ桃は白だろ。黄桃とか邪道だよ。ハハ」
彼は笑った。いつもの軽口だ。大体彼はいつもこんな調子なのだ。
なんと返したらいいかわからなくて、私はスプーンで桃をつついた。
深い黄色が白にまみれている。
ヨーグルトと一緒に黄桃をすくい上げ、口に運び、ろくに咀嚼もせず飲みこんだ。
ゴクリ。
美味しい。