第5章 渡る世間に鬼はなし
見た目は男。
頭脳は女。しかも同性愛者ときた。
春香の居場所は無くなりました。
ついでに私にも責任が降りかかりました。
だから私達は仲良く、殺されかけました。
が、さすがに犯罪はまずいと、冷静さを取り戻されたおかげで、私と春香は自立するまで、親戚全員による虐待を受けた。虐待も十分犯罪だが。
その所為で私は一生消えない傷が心と身体にできました。
春香は断り方を忘れました。
『私と春香は親戚とは絶交し、連絡もとっていなければ、お互い今どこで何をしているのかもわかりません』
シェイドは話を終えると、黙って全てを聞いていた女性社員を見る。
彼女は何を言えばいいのか迷っているようだ。それもそうだろう。こんなドラマのような話、現実で聞いたら受け止め切れない。
『私は』
シェイドが口を開くと、女性社員はシェイドと目を合わせた。
『相手を楽しませる話術は持ち合わせておりません。だから、私が話せばとても深刻に思えるのも仕方ない事です。でも、春香に話させると、そこまで深刻でないように思います。同じ話でも、話す人が変われば、捉え方も変わります。不思議ですよね』
シェイドは少し目を細めて、女性社員を見つめる。
『仕事、頑張って下さい』
それだけ言うと、ベンチから立ち上がり、足元に置いてあった空の缶を捨て、休憩所を出て行った。
廊下には春香が腕を組んで壁にもたれていた。まるでシェイドが出てくるのを待っていたかのように。
「慰めようか?」
『要らない』
春香の質問に即答して、シェイドは地下階段へ向かう。
夕日が西に傾き始めている。