第5章 渡る世間に鬼はなし
「そうなんです」
『「そうなんです」じゃないですよ!』
シェイドは叫んでいた。彼女の目に焦りが浮かぶ。女性社員は小さく「ひっ……」と声を漏らす。
『あんのバカ春香。またやらかすんじゃ……』
ブツブツと暴言を口にし始めたシェイドを見て、女性社員は心配になってきた。
「不味い事なのですか……?」
『不味いどころでは無いですよ。大問題です』
シェイドの目が冷徹になる。
『古い友人の借金の連帯保証人になろうとしたり、都会に行けば出会うホームレスに食べ物をあげたり、明らかな詐欺電話に惑わされ高額の買い物をさせられそうになったりと、例を挙げればキリがないです。その都度、私が止めないとこっちまで被害が出るんです』
いつもは表情が読み取りにくいシェイドだが、奥歯を噛み締めて歯軋りが聴こえてきそうなほど一点を見つめている。
女性社員は横でそれを見て、失言だったなと反省していると
『せっかくなので、教えましょう』
シェイドが突然そんな事を言った。
女性社員は目を丸くした。
「あの……その……何を……?」
シェイドはいつもの無表情で女性社員と視線を合わせる。
『春香の……私の従兄弟であり、この会社の副社長の話、です』
シェイドの目は優しかったが、悲しんでいるようにも見える。