第4章 おくびにも出さない
午後4時30分頃。
シェイドは疲れ切った顔(少なくとも本人はそう思っているが、他の人には無表情に見える顔)で、屋上で洗濯物を取り込んでいた。
今までに何度か従兄弟に褒め倒されたことはあるが、どうにも慣れない。毎度のように癖が強いのだ。
シェイドが精神的疲労を感じながら、洗濯物を入れた籠を持ち上げ、顔を上げると
『…………?』
ひとりの人間が、道路の向こう側の建物の屋根・屋上を転々としながら跳び去って行った。並みの人間よりも動体視力の備わったシェイドでも、うまく目で追えない素早さだ。
『(深緑色……デクさんですね)』
しかし、色は認識できた。ついでに誰なのかも推測できた。
『(あのコスチュームは市街地だと目立ちますね。山岳地帯だと少しはマシになるでしょうか?)』
シェイドは持ち上げた籠を持ち直して、屋上を後にした。
………ドタドタドタドタ、バンッ!
「シェイド!!!」
『…………』
勢いよくシェイドの事務所の扉を開けて入って来たのは従兄弟だ。
シェイドはヒーロースーツに着替え終わった後で、拳銃を抜き撃つ練習をしていた。
『どうしました?』
肩で息をする従兄弟を見て、シェイドは首を傾げる。
呼吸を整えた従兄弟は、シェイドに驚くべきことを言った。
「今日は、パトロールしなくていい」
『はい?』
勿論、シェイドは露骨に嫌そうな顔をする。
従兄弟はその顔を見て、ああやっぱりか、と思いつつ、嫌がる顔は怖いからやめてほしい、とも思った。
従兄弟が呑気にそんな事を考えている間に、シェイドはツカツカと従兄弟に近づき、胸ぐらを掴んで冷徹な目で睨みつけた。従兄弟の方が15cm程身長が高いので、かなり不恰好だ。
「ご、ごめん!ごめんなさい!私が悪かったちゃんと訳があるから話させてお願い落ち着いて全部話します怒らないで聞いて!」
怯えきった従兄弟が早口に捲し立てると、シェイドは不承不承手を離した。
「ゲエーーッ。苦しかったーー」
従兄弟は自分の喉をさすりながら呟く。
シェイドは、従兄弟を『早く話せ』と言わんばかりに睨みつける。
部屋の時計は午後6時を指していた。