第9章 双つの黒と蕾の運命
中也は手套をゆっくりと脱いで行く。
「汝…陰鬱なる汚濁の許容よ…改めてわれを目覚ますことなかれ」
躰の中心から湧き出るように赤い痣が中也の躰を覆っていく。先から『黒』が侵食していく。一歩踏み出すと地面は砕かれる。砕かれた破片は巻き上げられ中也にまとわりつく。
組合の植物男が目を覚ますと、目の前で起きている光景に驚愕した。
「何だあれは……!」
男は頸元の冷たい感触に黙り込む。後ろでは葉琉が短刀を構えていた。
「知りたいかい、組合の働き蟻君」と太宰が近付いて来る。後ろには葉月の姿もあった。
「あれが中也の異能の本当の姿だよ」
中也は巨大な塊に突っ込んで行く。両手に宿した重力子弾を容赦なく打つけた。
「中也の『汚濁』形態は周囲の重力子を操る。自身の質量密度を増大させ、戦車すら素手で砕く。圧縮した重力子弾は凡百質量を呑み込む暗黒空間だ。但し本人は力を制御出来ず、力を使い果たして死ぬまで暴れ続けるけどね」
中也の攻撃は中っている。その度に塊は一度小さくなるが直ぐに大きさが戻る。
「しかし…あれは一体何だい?中也が幾ら削っても即座に再生している。相棒の君ならあれの正体を知っているんじゃないかな?」
「ふん…さてね。仮に知っていても教える訳ないだろ」
中也の鼻や口からは血が溢れ始めた。
「太宰さん!このままじゃ中也の躰が保ちません!」
葉月は今にも疾り出しそうな脚を力強く踏みしめた。
「生憎だね。ああなったラヴクラフトを外部から破壊する手段なんて存在しない」
太宰はニヤリと笑い「外部から?」と聞き返す。
「つまり、内部からの攻撃は効く訳だ」
太宰は懐から取り出したスイッチを押す。直後、巨大な塊は中から弾けた。中也は高々と飛び、今まで一番大きな重力子弾を構えていた。
「やっちまえ、中也」
太宰の言葉と同時に、その重力子弾は投げつけられ、辺りに爆風が吹き荒れる。巨大な塊が有った場所には大きな穴が空いていた。