第2章 黄瀬*常習犯
「香奈ー! 分かんないっスー」
彼氏である黄瀬くんが抱きついてきた。
顔は見えないけど、涙目になっているんだろう。
……っていうか。
「まだ一問も解けてないじゃない! しかもそれ、中学の問題だよ!」
そんな私達は今、私の家で勉強会をしている。
これは思ったより手間がかかりそうだ。
「もう……。教えるから離れてよ」
「嫌っス。もう勉強やめにしないっスか?」
彼は子供みたいに、肩にぐりぐり顔を押しつけてくる。一方の私も、特に恥じらいはなかった。
抱きしめられるのはもう慣れっこだから。
……ふと、今までのことを振り返る。
*
「俺、香奈のことが好きです。俺と付き合ってください!」
意外だった、黄瀬くんからの告白の時も。
「あっ、わ、私も……っ」
「本当っスか⁉︎ やったぁー!」
いきなり飛びついてきて、初めてだったからすごく混乱した。
デートの時も。
ファンの女の子に追いかけられて、人気のない路地裏に逃げ込んだら、
「わっ、ちょっと急に……!」
「しーっ。見つかっちゃうっスよ」
そう言って抱きしめられたっけ。
*
甘えたなのか、彼は相当ハグがお気に入りらしい。
「香奈」
「んー?」
「俺、こうしてんのすげー幸せっス」
「……知ってる」
少しの沈黙のあと。
「勉強、もうちょっとだけ待ってくれないっスか?」
「そう言って、やんないくせに。……いいよ」
甘やかす私も、結局、抱きしめられるのが好きなのかもしれないな、と思った。
*常習犯*
甘やかされて、甘やかして。
いつもそうやって、
お互いをダメにしてしまうね。