第93章 *きっかけ*〜紫原敦〜 request
香奈side
「香奈ちん、お菓子ちょうだーい」
「うっ…。」
紫原君は、一日一回は私に話しかけてくる。
そして、一回目は必ず同じ内容だ。
「お菓子ちょうだい」と。
だけど、今日はそうはいかない!
だって今あるクッキーは、期間限定物がたった一つ!
そんな貴重な物を譲れるはずがない。
「き、今日は氷室君にもらおうか…」
「何で〜?…あ、それ期間限定の…」
「違う!違うよ!」
まずい、バレた。
そんな期待の目でこっちをみないでくださいっ!
「こ、これは一個しかないから…」
「俺は一個もないんだけどー」
「うう…」
どうしよう。
よく考えたら、もうほとんど売ってないようなレア物を、氷室君が持ってるはずがない。
こ、こうなったら…!
「あむっ」
「えっ」
先に食べた物勝ちだ!
そう思い、私がクッキーを口に入れると、紫原君は不機嫌そうに顔をしかめた。
「香奈ちんは、何で俺がいつもお菓子をほしがるか、分かるー?」
唐突なその質問に、お菓子が好きだからじゃないの?と答えたかったけど、口を開けばクッキーが落ちる。
仕方なく、私は首を横に振った。
「それはねー…」
そこまで言って言葉を途切れさせた紫原君を不思議に思ってると、突然、口の近くででカリッという音がした。
「…!?」
少しして、意味を理解する。
紫原君に、口からはみ出していたクッキーを食べられたからだ。
そう思うと、赤面せずにはいられなかった。
「香奈ちんと、話したいからだよ。」
その言葉に、緊張と恥ずかしさでガチガチに固まってしまう。
「そ、それ…。」
それは、もしかしなくても…
恋ですか?
*きっかけ*
お菓子をほしがる理由。
それはただ、
話しかけるきっかけがほしいだけ。