第90章 *一秒前に*〜日向順平〜
香奈side
もう寝ちゃったかな?
まだ起きてるかな?
忘れちゃったのかな?
明日くれるかな…?
「何一人で悩んでるんだろ…」
気付けばもう十一時になっていた。
ホワイトデーという名の今日が終わるまで、あと一時間。
「順平…」
呟いた彼の名前。
その彼からは、何ももらえないまま。
分かってる。
期待してもダメだって。
寝てても起きてても、忘れていても覚えいても、今日は会えない。
どれだけ悩んでても、順平が来る事はないんだ。
「はぁ…」
そうしてる間にも、どんどん時間は過ぎていく。
順平の事考えたり、時計を見たりの繰り返し。
気分転換に音楽を聞いても、全然意味がなかった。
「…あと五分だ。」
考え事をしてたら時間が経つのなんてあっという間で、時計の長い針は十一をさしていた。
何と無く寂しくなって、ベッドの上に体育座りで座り、膝に顔を埋める。
何度呼んでも聞こえないのは分かってる。
でも、それでも…
「順平…来てよ…」
その名を呼んだら来てくれると、そんな気がして、一人呟いた。
『ピンポーン』
その時、インターホンが鳴る。
誰だろう、こんな時間に。
…もしかして、順平…?
ううん、そんなわけない。
頭の中でそう言いつつ、でも心のどこかでそうだと思う自分がいた。
「は、はい…」
この後順平の声が聞こえたら、どうしよう。
なんて反応すればいいのかな?
期待と緊張で、私はドキドキしていた。
『香奈、悪い、こんな遅くに…』
「順平…!」
でも、その声を聞いた瞬間、私は今行く!と言って玄関に向かって走っていた。
今日が終わるまで、あと十秒。
…残り、五秒。
三、ニ…
『ガチャッ』
「香奈!すっ…好きだ!」
その小さめな箱を受け取った瞬間、日付が次の日に変わった。
真っ赤になった順平が、私を抱きしめてくれる。
「遅くなって悪い…」
「遅くなんかないよ。…私も好き。」
ホワイトデーの最後に順平に会えて嬉しい。
私もそっと、順平を抱きしめた。
*一秒前に*
その日が終わる
一秒前に、
どうしても会いたかったんだ。