第89章 *余裕なんて*〜赤司征十郎〜
赤司side
何で
「香奈ちゃん、これバレンタインのお返しー!」
「ありがとうございます!」
何でお前は…
誰にでも簡単に笑顔を向けてしまうんだ。
「…香奈。」
「ん?どうしたの、赤司君。」
その笑顔を見て、いつも許してしまう。
本当に嬉しそうに振り返るから。
「いや…何でもない。」
「そっか。」
でも、そんな笑顔を見ても、やっぱりどこかに不安が残る。
「あ、赤司君も食べる?葉山先輩からもらったクッキー」
「…」
「…赤司君?」
その笑顔は自分だけのものじゃない。
そう考えると、どうしても香奈を独占したくなった。
「香奈…好きだ。」
「う、うん…?」
「今は僕だけ見てくれないか?」
今まで言わないでいたが…香奈は言わないと分からないようだ。
「僕だって嫉妬くらいする。」
「…ご、ごめん…っ」
「…好きだって言ってくれないか?」
付き合い始めて一ヶ月。
一回も『好き』と聞いた事がないから、余計不安になったのかもしれない。
「…好きだよ、赤司君っ」
だけど、その言葉を聞いた瞬間、今までの不安が嘘のように消えていった。
「ありがとう」
そんな言葉と同時に、香奈にホワイトデーのチョコレートを渡す。
「これ、ホワイトデーの…?」
恐る恐る聞く香奈に頷くと、パァァッと嬉しそうに微笑んだ。
「可愛いな、香奈は。」
「え、ちょっと、急にやめてよ…!」
照れた表情もどこか嬉しそうで、そんな香奈に僕はキスをした。
*余裕なんて*
余裕なんてなくなるくらい、
君の全てに、
魅了されてしまうんだ。