第66章 *横顔*〜緑間真太郎〜
香奈side
「真ちゃんおっはよー!」
朝、そう言いながら鞄を置く席。
クラスで一番後ろのこの席は、彼氏の、真ちゃんこと緑間真太郎の隣の席だ。
「遅いのだよ、香奈。いつも朝練がある俺より、お前の方が遅いだろう。いい加減にしないと遅刻すると、何度言ったら…」
「あ、それラッキーアイテムー?」
真ちゃんは毎朝この話を始めるから、とりあえず無視して、机にあった赤いリボンに視線を移した。
やれやれ、とでも言いたげにため息を吐く真ちゃん。
「ああ。」
「へー!可愛いねーっ」
綺麗にリボン結びにされたそれは、シンプルだけど可愛い。
どこで売ってたのかな?
聞こうとしたけど、鐘が鳴って先生が教室に入ってきたから、自分の席に着いた。
…授業中。
先生の声ほどあたしを眠りに誘うものはない。
さっきから、教科書を見てるふりをして、ずっと睡魔と対決中。
こうなったら、いっそ寝た方が…
いや、でも…
なんて思ってた時、ふと思い出す。
「香奈、寝るな。」
そういえば今、教科書忘れて、真ちゃんに見せてもらってるんだった。
「ごめん、寝てはないけど寝そうになってた…」
せっかく真ちゃんと席くっつけてるのに、寝るのは失礼だし、もったいないよね。
「そんなに眠いなら…」
何を言うのかな、と思って答えを待つけど、ふいっと顔を背けられる。
代わりに、手に温もりを感じた。
…手、繋がれてる?
「あ、ありがと?」
どうしよ、緊張でガチガチだよ…。
今までこんな事、一度もなかったし…。
だけど、何より嬉しくて。
授業中にも関わらず頬が緩んだ。
「…笑うな。」
「ふふっ。だって、嬉しいんだもん。」
こっそり会話出来るのも、隣だからこそ。
本当、この席で良かったなぁ。
「…そうか。」
そう言う真ちゃんの横顔は、真っ赤で、でも、どこか嬉しそうだった。
見間違い…じゃ、ないよね。
だって確かに、小さく微笑んでいたから。
*横顔*
いつも見える横顔。
君の表情を、これからも、
もっとたくさん知りたいな。