第63章 *体温*〜桜井良〜
香奈side
2月。
まだ肌寒さが残る月。
そんな中、雪の歩道を歩く私の息も、隣を歩く彼の息も白いのが分かった。
「良くーん」
「へっ!?す、スイマセン!」
「いや、そうじゃなくて、なんか寒くない?」
「そうですね…」
…いや、それだけ!?
普通、ラブラブなムードになったりしない?
ましてデート中なのに…
「ちょっと、手冷えるよね…」
なんて、何気なくアピール。
「手袋貸しましょうか?ありますよ。」
「…ううん、大丈夫。」
手繋いでほしいだけなのに。
冬の温度のせいというよりも、良君が構ってくれないのが寂しくて、余計寒く感じる。
もっと構ってほしい。
なんて、子供っぽいかな…?
「ね、良く…きゃ!」
良君ばかり見てたから、凍りついた場所で思い切り足を滑らせた。
頭打ったらかなり痛いな、なんて思いつつ、目を閉じた時。
『トンッ』
という音と共に、抱きしめられるのを感じた。
私を抱きしめるのなんて、一人しかいない。
「大丈夫ですか?すいません、僕がちゃんと見てなかったから…」
「ううん、良君は悪くないよ。」
私が滑っただけなのに、不安そうに揺れる瞳。
そんな目しなくていいのに。
だって良君は、私の事助けてくれたでしょ?
「よかった…」
「っ!」
不意に見せた笑顔に、ドキッとした。
頬を赤く染めて、目を細めて、優しく笑う良君は、可愛いけどかっこいい。
そんな顔を見て、ふと、離れたくないと思った。
「良君。」
「やっぱり怪我してましたか!?スイマセン!どこを…」
「怪我はしてないよ。でも…もうちょっとだけ、このままでもいい?」
キュッと良君の背中に腕を回せば、良君にも包まれる。
それだけで、さっきまで寒かったのに、急に体温が上がってしまった。
「…先に謝っておきます。すいません。」
「へ?」
唐突な彼の言葉に上を向けば、
「ん…」
優しく重なる唇。
ああ、もう。
不意打ちなんて、ズルいよ。
*体温*
寒い冬だって、
君が私に触れるだけで、
体温は一気に上がって…