第56章 *弱み*〜赤司征十郎〜
香奈side
「…モテモテだね」
バレンタインデー。
赤司君が持つ大量の包みを見て、これ以外の言葉が見つからなかった。
成績優秀、スポーツ万能。
完璧人間な赤司君がモテるのは、今に始まった事じゃない。
だけどさぁ。
さすがにこれだけのチョコもらってたら…あたしが渡せなくなっちゃうじゃん。
「香奈も食べるか?」
「いらない。」
赤司君はあたしが好きだって知らないから、こんな無神経な事言えるんだ。
「…いいなぁ。」
「何がだ?」
「別に…」
こんな上手にチョコ作れるんだ。
あたしなんてまだまだだよ…
「香奈のチョコの方が美味しそうだけどね。」
「はいっ!?」
「顔に出てる。」
クスッと笑ってあたしを見つめてくる赤司君。
そんなに見られると恥ずかしいんだけど…っ!
「っていうか、何で食べてないのに美味しいって断言できるのさっ!」
「僕の予想は外れないからな。」
なんつー自信…
そんな事言われたって、あたしの不安は募るばかりだ。
「まぁ、赤司君には作ってないけどね。」
「あるんだろう?」
「…はいはい、ありますよ。」
本当の事を言えと目で言われ、仕方なく降参する。
鞄から小さい包みを出して、赤司君に押し付けるように渡した。
「…あんまり期待しないでよ。」
「それは無理だな。」
「へ?…ん」
何が起こったのか分からなかった。
ただ、口元に温かい感覚。
「香奈、僕の事が好きなんだろう?」
「なっ…!」
「僕は好きだ。」
じゃあ、さっきのって…
「拒否権はないからな。」
「赤司君のバカ!大っ嫌い!!」
*弱み*
嫌いと言いつつ、
嫌いになんてなれないのは、
きっと、惚れた弱みってやつです。