第10章 分かってる
お酒を注文して、大輝と2人でカウンター席へ座る。暫くいつものような無駄話をして、笑う。
「…で、何の話だよ」
『…ちょっと昔話してもいいかな』
「…付き合ってやるよ」
あたしは大輝に話した。昔、大輝に赤司君との事を黙っていた事。
昔、嘘をついた事。
理由も話さず、"頑張れ"と背中を押してもらい、勝手に利用した事。
「んだよ、そんな事か」
『そんな事じゃないよ。あたしはあの言葉にどれだけ勇気を貰ったか。大輝がいてくれなきゃ、あたしは後悔してたと思う』
「…けど結果、それがお前を傷付けちまった」
『ううん。それはもう本当に大丈夫。だから、大輝が気にしないでよ』
「…で?」
分かってた。本当は分かってた。
赤司君は初恋の相手。その赤司君が変わり、それに納得がいかなかった自分を、本当は分かってた。
『分かってた、あたしが目をそむけてた事くらい。分かってた、あたしが勝手に自分の首を絞めてた事くらい。分かってた…
あたしが本当は
赤司君を忘れられない事くらい』
全部、本当は分かってた。