第11章 私とパンダと空のむこう
桃浜有様
久しぶりだな、元気にしているか?
オレは元気だ。色々慣れないこともあるけれど、なんとか上手くやっている。
字が汚くてすまないな。読むのは出来るんだが、そういえば書くのはやった事がなかったんだ。
中国語もできないから、学校で小さな子どもたちに混ざって勉強している。
黒白人の人たちはオレを歓迎してくれた。
近くには人間の村もあるんだが、そこの人たちもオレたちパンダ人間と普通に接してくれる。聞いた話だが、この辺りはもう千年以上も昔からこうらしい。
人里で暮らす黒白人もいるし、黒白人の村で暮らす人間もいる。
オレの親らしい、という人にも会えた。いま一緒に暮らしているんだが、とてもよくしてくれる。嬉しいよ。
両親の畑を手伝いながら、オレは人里に行って出稼ぎなんかもしている。
桃浜の家にいたころは桃浜を働かせっぱなしで、オレは手伝ってやれなかったよな。本音のところ、あれはつらかった。
こっちでは自分で働いて、自分で稼げる。いいもんだなこういうの。
オレは本当に毎日働いているよ。おかげで手紙を書くのもすっかり遅れてしまった。それについてはすまない。
でも、ようやくそれなりにお金が貯まったんだ。
今度家を買おうかと思っている。山あいに、小さいけれどいい家があるんだ。(桃浜はいつも家賃が高いと言っていたが、こっちは家が安いんだよ。田舎だからかな?)
なんでその家がいいかって、眺めが心底好きなんだ。
窓枠に手をかけて外を見やるだろう?
右と左は空まででっかい山がそびえて、その間には草っぱら。そいつは段々になってふもとまで続き、ポツポツと建っている家はオモチャみたいに見える。そこから先は何にもなくて、ずいぶん果てまで見渡せるんだ。
太陽の沈む頃合いは1番好きだ。辺りがすっかり赤だの金だのに輝くのを見ると、空の向こうのお前を思い出して、この景色をお前と見たいって、オレは毎回そう思うんだ。
中国行きの航空券を手紙に同封しておいた。(これもオレが働いて買ったんだ!)
よかったらオレと暮らさないか。嫌ならそれでもいいが。任せるよ。
だけどオレは、オレと桃浜はいい家族になれると思う。
伊豆
追伸 パンダのエプロンはみんなに笑われた。オレの母親は、オレの方がよほどイケメンだと言ってくれたよ。