第10章 現在
現在──太宰side
組合が横浜を去ってから1ヶ月が経った。
即ち、菜生が行方不明になってからも1ヶ月。
探偵社の中は、焦りと不安に溢れていた。
菜生は何処だ。体調不良か。それにしては長すぎる。何故連絡がつかない。
何となく、皆が予感していること──組合に攫われたのでは──などとは、誰も言い出せない。
そんな中、太宰はただ1人、違和感を拭いきれないことがあった。
──あの時の菜生は、様子が少し変だった。
敦に懸賞金を掛けた黒幕が、組合であるとの報告書を自分が提出した時の事だ。
菜生は一瞬だけ動きを止め、直ぐに作業を再開させた。
本当に一瞬だった為、他の誰も気付いていないようだが。
本音を云うと、乱歩に確認したい。菜生が強いとはいえ、心配であることに変わりはないし、何故急に音信不通になったのか、今は何処で何をしているのか、それを知りたいのだ。
しかし、乱歩は誰に尋ねられても「何も話せることはないよ」と突き放すだけだ。
話し方からして、知っていることはあるのだろうが話せないといった所だろう。
菜生に口止めでもされたのかもしれない。
──まァ、私が菜生の様子に気付いたのも、付き合いが長いからだし…