第2章 2 目まぐるし序曲
≪歪み≫は、ゆっくりと開眼する。
紅の瞳に飛び込んでくるのは青色の過去。
目前に広がる、澄んだ海。
≪歪み≫の足元には、崩れかけた崖。
「世界は世界で全然違うんだねぇ
ここは何もかもが繊細だ。
故に、脆く壊れやすい。」
≪歪み≫の声は、心底楽しそうな響きだ。
そして≪歪み≫は、空に手を伸ばした。
男の大きな手が、紅に写りこむ。
シュッ
本の幽かに、空気の乱れが起きた。
「世界を隔てている物は何もない
そこにあるのは時間だけだ」
男にしては少し高く、女にしては低すぎる声が響いた後、≪歪み≫の横に青年が現れる。
「[マスター]…サボりはいけないよね」
「…そのマスターという呼び方はやめろ……
お前は…サボりではないのか?
こんな何にもない場所で感傷に浸って。」
青年は≪歪み≫を一笑する。
「ははは。ごめんね。
私の場合はたんなる仕事だよ
貴方様からの命令でわざわざ飛ばされたんだけど」
「……そう言えば、
そんな仕事をお前に受諾させた記憶があるような」
「……貴方は意地悪だ
私は、彼らを視ていたのに」
≪歪み≫は拗ねたような顔をして首をすくめる。
「ふん……。
こんな平和ボケした世界にいたら、
身体が鈍る…
そろそろ向こうに戻る」
青年が≪歪み≫に背を向け歩き出す。
次の瞬間、青年の声色は低くドスの効いたモノとなり、
「神使い…見つけ次第殺せよ」
そんな物騒な言葉を吐いた。
風がそよぎ、≪歪み≫がちらりと後ろを見ると、すでに青年はそこにはいなかった。
「………ブラッド…
私は…大切な彼らのために、芽は潰さないよ…
例え、私が死んでも。
ね?」