第1章 1 目覚め
ドクンと
悪が息吹を吹き返した。
ドクンと
善が生命の躍動を開始した。
黒く、白く、夥しい量の光を放ち続ける楕円型の柩が、本来の活動を停止させsleepchangeに移行する。
瞬きをする。
だがまだ瞳に世界は写らない。
両腕を持ち上げる。
左腕は辛うじて動くようだ。
止まった思考リズムを本来の周期へと戻す。
思考回路は正常に働いている。
身体に何かが満たされる。
暖かい液体が、動かないドールに元の生命体としての生命力を流し込む。
再三瞬きをすると、ようやく景色が開けた。
白い天井。白い壁。白い服。
ゆらゆらと、力の入らない足を使って立ち上がる。
周りを見渡すと、高さ100センチ程の円柱が疎らに立っていた。
そのうちの1つを掴む。
ビュンッ
何かが空を伐る音が鳴った後、円柱の上にパネルが浮かび上がる。
「ジジッ……ギガガッギーッ」
雑音。不協和音が空間を満たす。
だが、[彼]にその雑音は聞こえてはいないようだった。
透き通るサファイアが、パネルを無心で見つめている。
「―――――。―――――――――。」
[彼]は何かを呟き、その場を後にした。