第7章 新年のご挨拶
「たのもー!!」
玄関先から、新年の挨拶からはえらくかけ離れた言葉が飛んできた。
届いた年賀状を確認していた手をとめ、外にいるであろう人物を思い浮かべる。
新年早々、たのもう、なんて声飛ばしてくるヤツなんか一人しか思い当たらない。
「春華! 俺と勝負しようぜ!」
玄関を開けて開口一番、お隣さんの夕が勝負を申し込んできた。
「……夕、まずは『あけましておめでとう。今年もよろしく』じゃない?」
「おっ、そうだったな! あけまして今年もよろしくぅ!」
「微妙に略さないでよ…」
ニカッと笑ってピースサインをよこす夕に、溜息ひとつ。
溜息をついたのも束の間、夕に強引に家から引きずり出されてしまった。
私とそう変わらない背丈なのに、腕を引っ張る力は強くて、夕も男なんだなと再認識する。
「なぁ、新年一発目! 俺と勝負してくれよ」
「勝負って、またアレ?」
「そう! 正月といややっぱコレしかねぇだろ!!」
じゃーん! と言いながら夕が取り出したのは、羽子板。
それも安いプラスチックのヤツじゃなくて、木で出来た重たいヤツ。
毎年正月に酷使されているからか、だいぶ傷だらけだ。
「…毎年飽きずによくやるよね。この寒い中さ」
「季節のイベントを全力で楽しむ! それが俺のポリシーだからなっ」
「そうですか」
「なんだよー、やろうぜ! 体動かしゃ寒さも吹き飛ぶぜ」
ニッと歯を見せて笑う夕の頼みを、面倒くさそうな顔して承諾する。
ほんとこの寒い中よくそんな元気でいられるものだと思う。
吐き出された息はすぐに真っ白になってたちのぼるし、さっきまで部屋で暖まっていた体もすっかり冷えて指先がかじかんできているというのに。
「夕だけズルいよ。そんな防寒ばっちりでさ。ちょっと待っててくれない? せめて上着くらい羽織らせて」
「…仕方ねーなぁ」
承諾を得て一度家の中へ引き返そうとした私の腕を、夕がむんずと掴んだ。
「何?」と口にして振り向くと、夕はおもむろに自分の上着を脱いで、私に羽織らせてくれた。
黒いダウンジャケットは、ほんのり夕のぬくもりが残っている。
…なんで、こういうことするかな。
こんなことさらりとやってのける前にさ、もっと気遣うことあるんじゃないの。
むっとした顔で夕を見てしまう。