第6章 私だけの〇〇〇
リ「だからさぁ。カワイイ女のコから声かけられたら電話番号くらい交換してもよくない?」
『よくないよ!』
リ「オレが先に言ったんじゃないし、向こうからだし」
『もういい!リエーフのバカ!···帰る!!』
リ「ちょっとハル!」
リエーフが私を呼ぶけど、駆け出した足は止まることなく雑踏へと潜り込む。
冬休みの部活がない貴重な日。
その日に、久々のデートしよう!って言われて私がどれだけ今日を楽しみにしてたのか、分かってない!
何日も前から、何着ていこうかな?とか。
雨だったら、どんな服装にしようかな?とか。
髪型、どうしよう?とか。
メイクは?とか。
ワクワクして、ドキドキして···待ち合わせの場所まで来たのはいいんだけど。
そこで見たものは···
彼女との待ち合わせをしている身でありながら、逆ナンされてニコニコ電話番号を交換している···リエーフの姿。
それを怒れば、さっきみたいに悪げもなく大した事じゃないじゃん?なんて。
···最低。
ホント、最低!
切れかかる息を整えようと立ち止まり、ふと···ショーウィンドウに写る自分の姿を見る。
脇目も振らず走っていたせいで、乱れた髪型。
悔しいのと、情けないのと、悲しいので溢れた涙で崩れたメイク顔。
そんな自分を見て、更に泣けてくる。
ポタポタと落ちる涙を拭いもせずに、私はまた、走り出した。
黒「で、なんで春華は研磨んちにいるんだよ」
研「クロ、それ···おれが聞きたいこと」
研磨さんはゲームをしている手元から目を離さずにボソッと言う。
『だって···』
こんなにボロボロじゃ、自分の家に帰れない。
···そう、思ったから。
それを伝えると、黒尾さんはクッションを抱えながら笑い転げ、研磨さんは小さなため息を吐いた。
黒「ま、お前の話を聞く限り、悪いのはリエーフだな」
ひとしきり笑い転げたあと、起き上がった黒尾さんがそう言った。
『ずっと部活だったから、凄く楽しみにしてたのに···リエーフの、バカ···』
泣くまいと思っていても、勝手に涙がこぼれ落ちてくる。
泣いても、何も解決しない事は分かってる。
だけど、とにかく今は···泣きたいんだもん!
研「だからって、何もおれんちに来て泣かなくても···」