第42章 ブルームーン
side.N
可愛い手。
いつだったか、そう言われて歓喜した。
ねぇ、もしもだよ。もしもの話ね。
あなたが描きたいと言ったのなら。請われたら。
俺、切り落とすくらいは平気で出来るよ。
流石に左は厳しいけど、右なら容易く手放せるよ?
手だけに、なんてね。
あぁ、でも、そうね。
利き手だろうと、あなたにあげられるかもしれない。
押しつけがましく、恩着せがましく、さ。
手首から先をみんなプレゼント。
そんなことだってきっと出来てしまう。
例えば、夢物語のようなことだけれど。
あなたに綺麗と言われたら。あなたが綺麗と言うのなら。
何をしてでも、あなたが望むように存在し続けられる。
自惚れも臆病も嫉妬も、そんなものには気付かせないから。
そんな汚いモノ全てを隠して、取り繕って。
息絶えるまで、あなた好みでいるから。
ほら綺麗だろって。好きでしょうってさ。
キレイに哂っていられる。
こんな俺のことなんて、あなたは知らない筈だ。
どうせ、あなたは俺らを平等に好いているし。
種類は違えど、同じくらい好きなんだもん。
あぁ、やってられない。でも、好き。大好き、愛してる。
俺にはあなただけ。
*****
溜息は自分でも分かるほど、酒臭い。
そろそろ止めるべきと分かってる。
だというのに、止められない。止めたくない。
グラスの中、青いアルコール。
呑みやすくて、度数が高いカクテル。
既に俺はしたたかに酔ってる。
もう、すっかり、美しい´´青´´に酔わされてる。
青い薔薇もそうだけど、何でかしらね。
不可能だとか、敵わないだとか。
そういう意味が与えられてる気がする。
まぁ、かく言う俺も身を以て感じるんだけど。
それでイイんだけどさ?
半ば作業のように、残り少ない青を呑みほした。
そしてまた、同じのを注文する。
悪酔いするだろうけど、酔いたくて仕方なかった。
奇蹟なんて、起こりっこないんだから。