第40章 別つまで(MとO)
side.M
「もっかい」
少し舌足らずな言葉はお決まりのもの。
悔しいことに、そのたった一言で、アンタの思い通りだ。
ホントに悔しいから言わないけど。
間を置かず、再び重ねた唇は熱いままだった。
互いの熱に浮かされたように、好き勝手に深く口付ける。
その内に胸をとんとんと叩かれた。息がもたない、ね。
出来たら、もっと味わっていたかったのに。
最後に下唇を舐めてから離れて、腕の中に閉じ込めた。
「永遠があったら良かったなぁ」
刻限が迫っているからか、気付けばそんなことを口走っていた。
焦りたくないし、急かしたくもなかったのに。
「どした?」
「いや、何となく」
ふふっと小さく笑って、オレの腕の中から顔を出す。
ほんの少しだけ、マジメな顔。直感的に、しくじったと思った。
敏いところがあるからなぁ。
ほんの少しの猶予の為に、柔らかい髪に指を通す。
それから、つむじにそっとキスを落としてみた。
数秒経って、呼吸を整えたのちに口を開く。
「幸せすぎて、こわくなっちゃった」
素直に言えば、またふふっと笑い声がした。
このひとのことだから、可愛いって思ったんだろ。
「そんなの無くたって、お前とはずっと一緒だよ」
「……は?」
軽やかに告げられたのは聞き捨てならないセリフ。
自分に好都合すぎて、現実じゃあないように感じた。
例え夢でも、浮かれることに違いは無いけれど。
「え、なに、違った?別れる予定でもあんの?」
「いや無いけどさ」
「だろ?」
得意げに笑ったアンタが、どうしようもなく眩しい。
あぁ、もう、ほら。
燻っていた不安だとかがどうでもよくなってくる。
やっぱ悔しいなっていうのと、くすぐったい充足感と。
このひとに掛かれば、オレの気持ちなんて容易く変わる。
本当、堪んない。
「……マジで好き。離してやんないから、覚悟して?」
「いいよ?お前のこと好きだもん」
オレを見てにっこり笑うんだけど、何だこの可愛いひと。
でもなぁ、これから仕事があるんだよな。
出来る訳が無いし、実際にはしない。
けど、行かせたくないな、と。切にそう思う。
帰ったら呆れられるくらいキスするか。
そんなことを考えながら、もう一度強く抱き締めた。