第39章 別つまで(SとM)
side.S
眦に滴が浮かんで、それが綺麗で仕方ないなんて。
そのキレイな泣き顔に、見蕩れてしまうなんて。
´´昔´´に惚れた訳じゃあないのに。
欠片を認めて、懐かしく、愛おしくなるのは何故だろう。
「ほら、大丈夫か」
頬を指で拭って問えば、返ってくるのは首肯。
しかし、その表情は、大丈夫とは程遠いものだ。
が、そのことについて掘り下げるつもりは無かった。
意地っ張りなとこもあるからなぁ。
自分のことは棚に上げて、可愛らしい、なんて思う。
「お前を捨てたりしないよ。約束するし、誓える」
「ん……分かってる」
しょうくん、と掠れた声が耳を擽った。
そして、また、はらりと涙が伝い落ちる。
ふと前髪を撫ぜて、露わになった額へとキスをしてみた。
祝福を贈りたかったから、なんてね。
ま、ただの見栄なんだろうけど。
置いてきぼりを恐れる潤に、置いてかれる気がする。
だから、怖がり焦る姿を、穏やかでない心持で見てた。
時折、コイツはひどく情緒不安定になる。
落ち着かせようとするオレも、精神的に危ういのだろう。
ふらふらと。ふわふわと。
実体のある不安が、言葉となって喉を震わせる。
「なぁ、松本。お前こそ、捨てるなよ」
「………え、何言ってんの。ありえないじゃん」
「うん。知ってる」
勝気に笑って見せれば、漸く潤は泣き止んだようだった。
お前がオレのこういう顔が好きだって、知ってる。
昔、そう言ってたもんな。
破片を拾い集めて、形作って。
空白のようだった時間を埋めよう、だなんて。
それじゃあ、お前と付き合っているオレは何なんだろう?
ふらり、と視界が揺れた。
「じゃ、腫れないように冷やすか。ちょっと待ってて」
そう言って立ち上がり、キッチンへと足早に向かう。
過去から逃げきれないのは、オレなのかもしれなかった。
ほら、足音が、すぐ後ろに。
潤が痺れを切らし傍に来るまで、オレは動けなかった。
自分の家だというのに。莫迦みたいに、立ち竦んでいた。