第36章 別つまで(OとS)
side.S
結婚はまだ?
なんて、どうでもいい話だ。
少なくとも、下卑た顔で聞いてくるヤツには無関係だろう。
思い出すだけで腹立たしくなる。
ぎゅっと力が入った掌の中、新聞が潰れたようだった。
「どうした、翔くん?」
「ううん。何も」
子供のような、けれど決して子供ではないあなた。
分からないような顔で、きちんとオレを分かってるひとだ。
何かがあったと察し、それでいて急かさないでいてくれる。
安心させたくてオレはとりあえず笑みを返す。
それを見て、あなたもいつものように笑ってくれた。
柔らかくて、あたたかかった。
一瞬だけ切なげだったけれど、見えないふりをした。
きっと、そういうオレの狡さも分かってる。
分かってくれると思う。
あなたなら、どんなオレでも受け入れるに違いない。
なんて、普通なら思い上がりも甚だしい。
だけども、あなたはその枠にはまらないから。
オレはあなたに関しては傲慢な人間のようだった。
でも、だって。
そんなオレを許すあなたも大概じゃない?
とんだ開き直り方だけどさ。
だから、付け上がるのは仕方ない。
オレはあなたのものだから、イイじゃないか。
あくびをして目を瞑るあなたに、自分の口角が上がるのが分かった。
外野のことは、今は放っておけばいい。どうせ無駄だ。
「ねぇ、智くん?」
「……んー」
「オレ、あなたと別れるくらいなら死ぬよ」
「…………そっか」
あぁ、やっぱり、あなただけだ。
オレの死に囚われてほしいのは、あなたしかいない。
どこを探してもあなた以外にはいない。
綺麗事だけれど、オレはふと願ったんだ。
囚われていてほしいけど、幸せになってほしいなって。
オレがいなくなっても、幸せでいてほしいなって。
それこそ死ぬときでないと言えないけど。
あなたはもしかすると腹を立てるかもしれないけど。
我が儘で、ごめんね?
オレはしわくちゃの新聞を、そっと撫でて哂った。