第31章 別つまで(AとM)
side.A
帰って来たと音で気付いて、寝室から出た。
足音が近づくにつれ、お酒とか色々な臭いも近づいてくる。
「おかえり」
楽しかったの?誰と?女の人いた?
ぐるぐると浮かんだことを呑み込む。
それで、おかえりとだけ笑って言うんだ。
イヤな言い方に、一瞬、目を丸くして破顔するキミ。
勝てない悔しさと。可愛いなっていうのと。ズルいよね。
「ただいま、楽しかったよ。アンタとが一番だけど」
「そ?」
慣れたように言うキミは、実際なれっこなんだろう。
一番だって言ってほしいけど、すんなり言われんのも何だか好きじゃない。
でも言われないと、駄目だって自分でも分かってるから。
コレが最適なんだろうね。
柔らかい表情で腰を引き寄せられて、顔にキスが降ってきて。
それだけですぐに幸せになるから、ホント安いと思う。
「もっと、して。オレだけだって、思わせてよ」
「アンタだけだから、不安になんなくて良いんだって」
「そう?ま、じゃないと、何するか分かんないからね?」
吐息で笑う気配がした。
本気にしてくれなくても、良いよ。
最悪、オレが絶対に離してやんなきゃイイだけだし。
「オレだって、アンタの為なら死んでもいいよ?」
ぎゅっと腕の中に閉じ込められて、甘く囁かれる。
甘ったるいくらいなのに、どうしてか胸のとこが苦しい。
オレの為と言うんだったら、死なないでほしいじゃない?
たった一つのモノを貰ったら嬉しいだろうけど。
だけどキミがいないなら、意味なんか無いし嬉しくもない。
そんな抗議の気持ちを込めて、頭を押し付ける。
「そうやって言うならさ、一緒にいてよ。それだけだよ」
そうだね。
聞こえるかどうかの返事が、聞こえたような気がした。
そうだと良いなと思ったから、あえて聞き返さなかった。
オレは知ってたから。知ってるから。
冗談抜きで、キミがオレの為に死ねるってこと。
だから、それを本当にはしたくなかった。
自分がへこんでても、拠り所にしたくなかったんだ。
自分は別れるなら死んでやるって思ってる癖に、松潤には死んでほしくなかった。
バカだなぁって笑う。笑うしかないよね。