第27章 閉じた目の上なら憧憬
side.M
すやすやと眠る、穏やかな表情。
それを向かい側から眺めるのが、密かな癒しだった。
30分は経つが、寝不足なのだろうか。起きる気配は全く無い。
席を立って足音を殺し、大野さんの真横に立ってみる。
寝顔を見下ろしつつ、さらさらの前髪を指で透く。やっぱり目覚めそうにはない。
それなら、ちょっとくらい。
魔が差した、とでも言うのかな。この状況を、好機だと思ってしまった。
まだ他には来ていないし、ほんの少しだけなんだから。だから、ね?
そう自分に言い聞かせ、誘惑に負けてしまうことにした。
リーダーの顔を覗き込むように、瞼に触れるかどうかのキスをする。
その感触にか、微かに身じろぎするのを見て、我に返った。
いや、そんなものじゃない。
血の気が引くのが、自分でも分かったんだから。ホント、馬鹿だ。
「………わるい」
口から零れたのは、謝罪の言葉で。
けれど、言うべき相手は眠ったまま、起こすことなんて出来なかった。
オレは罪悪感に駆られ、部屋から逃げ出した。そんなの、後の祭りなのに。
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だから、オレは知らない。知る筈が無かった。
大野さんが寝たフリをしていたことも、それから動揺していたってことも。
それを知ったのは、付き合ってからだったんだ。何だか、腹立たしいよね。