第26章 唇の上なら愛情
side.M
ソファに座る自分と向き合うように、大野さんが跨った。
抱き合ったそばから、オレの首に腕を回して上機嫌のようだ。
「かわいい。俺の、潤」
耳に吹き込むように、掠れ気味の声で言われる。
じわじわと、体の内側が熱くなっていく。
だって、とっくに分かってる。その声音が自分だけのものなんだと。
「可愛くねぇって」
いつも通り言い返すと、大野さんは小さく笑った。
絡んだ腕を離して軽く睨んでみても、気にせずクスクス笑ってる。
「俺の、は否定しないね?」
「ホントだし」
そっけなく返事をして、そこでやっと彼が笑う理由を悟る。
可愛いと言われるのを突っ撥ねるのが、照れ隠しだとバレてて。
それで以て、大野さんのものだと言われることを、当然だと受け入れてて。
だから、こんなに嬉しそうなのか。納得した。
先程よりも強く抱き着いた後、大野さんが触れるだけのキスを降らせてくる。
そのキスの合間に、やっぱり笑顔で言ってくるんだ。
かわいいって。自分のものって。
このひとは、オレが想像するより、オレのことが好きなんだなぁ。
そんな自惚れたことを思った。どうやったって、そうだと思えてならない。
普段はそうじゃない。自分の方が、自分ばかりが、好きでいるような気がしちゃう。
もう少し、あとちょっと。なんて、慎ましくいられない。
叶うのなら、ずっとこうしていたかった。
心地好さにそっと目を閉じて、今度はオレから抱き締めた。
どこにも、逃げないように。