第21章 アバンチュールのお誘いですか
side.A
アバンチュール。
使えるって思ったんだ。
変に思われても、冗談に出来るから。無かったことに、出来るから。
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「ねぇ、翔ちゃん。アバンチュールしない?」
「ん?……いいよ」
まだ二人しか来てなくて、チャンスだって声をかけた。
そしたら、コレだ。
いいよって何?オッケー?いらないってこと?どっちだ?
分かんないから、笑った。多分、冗談ってことだ。
「お前さぁ、あんま他で言うなよ?」
ちらりと新聞から視線を上げて言う。
その目が、思ったよりも鋭くて。ドクンって心臓が鳴った気がした。
翔ちゃんの、マジなトーンだ。どこにマジなんだろうね。
やっぱ分かんない。だから、笑う。
「翔ちゃんだけだよ」
「そ、ならイイんだけど」
また、新聞とにらめっこを始める。
何なんだろ、コレ。結局どういうことなんだろうな。
良い感じに無かったことになった、のかな?それなら良いか。
オレは、臆病だもん。踏み出す勇気なんて持ってない。
「みんな遅いねぇ。早く来ないかな。ね、翔ちゃん」
「オレは二人きりを楽しみたいね。なかなか無いんだしさ」
「そう、だね……?」
「ははッ、まだ、分かんない?」
うん、分かんないよ。
翔ちゃんの言葉も表情も、オレじゃ分からない。
だけど、いつのまにか近付いてた距離は、喜ぶべきもので。
頭をぽんってされるのも、好きで。
「オレさ、本気だから。アバンチュールじゃ満足しないよ?」
夢みたいな言葉で、いっそ妄想みたい。
それでも、翔ちゃんを信じちゃう。深く考えずに、頷いちゃう。
何だ、オレ。最初から、冗談にするつもり無かったんだ。
そんな自嘲の笑みは、唇ごと奪われた。
欲張ってもイイのかな?
やっぱりよく分かんないまま、オレは翔ちゃんの首に腕を回す。
欲しがってほしいだけ。ウソでもホントでも、何でも良い。
本当は、そんなのじゃ良くないけど。