第15章 1224
side.S
散在するカトラリーに、デコレーションが台無しのケーキ。
後片付けが大変だと考えつつ、目の前の恋人に苺を食べさせた。
すっかりクリームでべとべとになった指ごと、思いきり。
愉しいだけの、品の無い食事をする。だって、特別な日だから。
聞くに堪えないような音に、確かに興奮してるんだろう。
粘膜に触れ、掻き回すという行為は、疑似的な交わりのようだ。
全く以て健全で何よりだよなぁ、ホント。
「オレの指まで食べちゃって……美味しい?」
「ん、ぁ………うん、おいしーよ」
「そりゃ良かった]
揶揄を含んだ問い掛けにも、雅紀は笑顔で答える。
多少はオレが仕込んだといっても、もともと合ってたんだろう。
あぁ、こわい。
天真爛漫、無邪気、ピュア、純真。
よく使われる形容を、こうも裏切られるといっそ愉快でしかない。
まぁ、オレだけが知っているという、優越感に因るところも大きいけど。
「次は、何が良い?キウイとか色々のってるけど」
「翔ちゃんが、イイなぁ。折角、オレの誕生日なんだしさ」
「へぇ………ま、仰せの儘に?好きにするけど、それで良いんだろ」
「うん、いーよ。翔ちゃんの、好きに、シて?」
雅紀が首をかしげて笑って、オレの指をわざとらしく舐める。
睨んでみせると、くふふと面白そうに笑い声をあげる。
この、悪趣味。
ま、愉しけりゃイイんだけどな。ケーキは二人分のピースを別で残してあるし。
ワインは呑みきったし、風呂にも入ったし、考えるのは明日で良い。
片付けるといって、こき使われるのも織り込み済みだ。
今は、目先のコトだけ。そんな怠惰な過ごし方も、偶にはアリじゃないか。
「お前、ベッドから動けると思うなよ」
「勿論。ちゃんとお世話してくれるんでしょ♪」
能天気にも聞こえる返事に、思わず溜息を吐く。
人見知りだとは知っているけど、人当たりが好いヤツだから。
しっかり躾けておかないとオレが困る。
心からそう思った、そんな濃密な夜だった。