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小話【気象系BL短編集】

第13章 とらえ、とらわれ



side.N


「旦那の足の爪にマニキュアを塗る。なんてのがあるらしいですよ、海外では」

知ってます?と笑ってみせた。
それは、思い付きという名の計画的犯行だった。
俺は前々から、割と真剣に考えていた。牽制したいな、と思ってた。

自然体でいるアナタを物理的に縛りたい訳じゃないけど。
やむを得ないなら、どこかに閉じこめることぐらいは平気で出来るけど。

「へぇ」

一言、興味の有無が分からない響きだ。

だけども、それで良かった。応えたのなら、それは肯定と見做して良いから。
するりと足の甲を撫でてみれば、笑う気配がした。
可笑しそうに、許してくれるように。

「浮気防止だそうですけど、イイでしょ」

「いいよ、別に」

どうでもいいと言いたげに俺を見る。
そうやって感情を露わにしないとこがあるから、偶にひどく不安になる。
アナタのこと、分かってるのか怖くなる。分かった気でいるだけじゃないかって。
機微に敏い自覚があったって、何かの影に怯えるのが俺だった。

「見られて困る相手いないの?」

「撮影あると困るね。これからの季節はサンダルとかあるし」

ごもっとも、とは言わないでおく。
俺の思考なんてものは、独占欲と執着でグチャグチャだ。
綺麗なひとにキレイじゃないものを見せたくない。
なんて、ざらにあることでしょ。

それが愛するひとなら余計に神経質になっちゃうんだよ。

見せたくないって思う。でも、見せつけたくなる。
アナタの恋人はこんなヤツだって。
そうそう別れられると思うなよ。そう言ってしまえたら良かったのかな。

「何もしなくても、絶対に離れねぇ」

「そう?」

「だってさぁ、生きてけるわけねぇだろ」

「ふふ、そうね」

体の中に拡がるコレは、何だろう。
甘くて優しくて、呼吸を妨げるようなモノ。
ソレはどうにもなんないくらい、俺を幸せにする。

とりあえず、買っといたマニキュアは片付けようと思った。
黄色と青。俺もアナタも必要無いって、ホントは分かってたんだ。
分かりきってても、愛されてる自信があっても、こんなときがあるってだけ。

ただの我が儘だ。
だって、俺がねだれば大抵のことは叶えてくれるもの。
ね、そうでしょう?





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