第12章 こわれることを知らずに other side
side.O
最近、笑ってる顔を見てない。
過ごす時間は変わってないのに、それが寂しかった。
優しく触れてきて、キスして、やることやって、それなのに。
翔くんの好きだと言う声は苦しげで、辛そうで聞いていられない。
俺って何なんだろうなぁって思っちゃうんだよ。
何も考えられないときに言ってくれたら良かった。
そしたら、立ち止まらずに済んだ。俺も好きって言えた。
*****
「オレ、あなたのこと、真剣に好きなんだよ」
俺だって、ふざけてなんかないよ?
くぐもって聞こえた声に、狸寝入りしてるのに返事しそうになった。
好き、とか。あなただけ、とか。眠りにおちる寸前まで、翔くんは呟いてるようだった。
それを聞いてると、胸のとこが痛くなる。
ぎゅうって痛くなって、息が苦しい。
フラれたかもしれないけど、最初に言えば良かった。
こんな風になるなら、俺が言えば良かったんだろうね。
近くにいると、逆によく見えなくなる。
翔くんが俺を見てんのか、分からなくなっちゃった。
もしかすると、俺は何かの替わりなんじゃないか。
そんなことばかり考えて、見えない誰かに嫉妬してる。
好きってこんなにしんどいものだったんだ。
昔はもっと楽しかった。欲張りになった罰なのかな?
話したとか、見てくれたとか、そういうので幸せになれた。
触れたら、熱を知ったら、ダメになっちゃうのかもね。
俺のだって、そんな風に勘違いしそうになる。
バカだからさ、そう思っちゃうよ。
穏やかな寝息が聞こえてきて、俺はやっとで顔を出す。
怯えが付き纏うから、いつもこうなってる。
翔くんも呆れてるかもしれない。なんて、悪夢だね。
「………替わりでもイイよ」
思ってもないことを、小さく言ってみる。
本当は、そんなこと思えない。マジメに思ったことも無い。
いつか翔くんが離れようとしたら、どうやって引き止めればイイんだろう。
泣いて縋れば、優しいから少しは一緒にいてくれるかなぁ。
翔くんが俺のじゃなくても、俺はずっと翔くんのモノ。
それは変わらないと思う。
静かなこの部屋で、毎回、独りきりだと感じるんだ。
寝付けなくて腕で目を覆えば、頬がほんのちょっと濡れてるのに気づいた。
泣く資格なんか無い癖に、可笑しいね。