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小話【気象系BL短編集】

第94章 以て瞑すべし



side.M



切羽詰まった表情だなぁ、と。
そんなに、そんなにもオレのことで、と。
体を震わせたのは恐怖ではなく、間違いなく歓喜だ。


「翔くん、本気なんだ」


ぽろり、と零れ出た。
気に障ったのか、足枷を手にした翔さんに射竦められる。
瞳は昏いのに、不自然に爛々と輝いて見えた。


「そうだよ。オレに、お前を独占させて」

「いいよ」


言われるや否や、返事をした。
だって、そんなこと、願ってもないことだもの。
オレはあなたのものだ、と。自分だけがそうなのだ、と。
本当はずっと知らしめたかった。

あなたに近付く女共に、同性の友人に。
メンバーは理解してくれたから、良いけど。
それ以外に教えてしまいたかった。牽制したかった。

だから”良い”のだ。
元より翔さんが決めたなら、それは”正しい”と思う。
ホントは、正しくなくたって。


「じゃあ、付けるよ。足、出して」


確認なんて不要なのに。そう思いながら、こくりと頷く。
ごくり、喉が鳴る。胸を満たすのは、多幸感だ。

そっと足を伸ばせば、翔さんが足元に跪いた。
足首に触れる冷たい金属に、我知らず吐息が漏れる。
鎖は短くはないけど、恐らく玄関までは行けないだろう。

オレは、この家に、閉じ込められたのだ。
翔さんが帰ってくる、ココに。


「どうしよ、翔さん」

「今更やめないよ」

「違うの。オレ、嬉しすぎて、どうしよう」


オレがそう言うと、僅かながら瞠目したように見えた。
驚いたのかは分からないけれど、意外性はあったのかな。
もしかして、ほんの少しでも抵抗されると思ってた?
翔さんが、オレの反応に憂いを抱いていた?
自分に都合の好い想像で、ますます幸せになってしまう。

いつも、いつだって。オレばかりだと思っていた。
翔さんも同じ風に思っていたとしたら。
それは途轍もなく嬉しいことだ。


「オレ、もう死んでも良いかも」

「馬鹿だな。お前はオレの帰りを待って、それで、ずっと一緒にいるんだよ」

「亭主関白だなぁ、相変わらず」

「お前の惚れた男だ。諦めろ」


勝ち誇ったように言う顔の、何て魅惑的なことだ。
惚れなおすどころじゃあない。
愛しさで息が詰まってしまうかもしれない。

翔くんには、責任を取ってもらわなきゃ。
この先、死ぬまで。




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