第89章 頬を抓れば、すぐに分かる 参
「潤の言う通り、お前のこと好きだよ」
「じゃあ!」
「んー………わりぃ、帰る。ヘンな空気にしてごめん」
「ちがう。雰囲気を悪くしたのはオレだよ。でも………そっか、バイバイ」
まるで泣くのを耐えているかのような表情で、智さんが帰っていってしまう。
折角、サトコちゃんで、手繋いだり出来た筈なのに。
自分の所為だって、分かってる。
空気をぶち壊して、勝手に機嫌を悪くして。
子供みたいに拗ねて、八つ当たりしたんだ。
「似合ってるって、言いたかったなぁ……ばかじゃん」
ぽつりと独り言ち、大きく溜息を吐く。
オレ、分かってなかった。自惚れて、胡坐をかいて、何にも返せてなかった。
智さんだって、手応えの無い相手に感けたりしない。
そんな当然のことを、今の今まで、気付いていなかったんだ。
ずっと智さんが好きでいるって、バカみたいに思い込んでいたんだ。
オレだって、好きになってるのに。
伝えもせずに、暢気にして。何て、馬鹿だ。