第10章 棒一本分の差
side.N
アナタの幸せは、俺の幸せじゃないみたい。
知らずにいられたら、どんなに良かったことだろうね。
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「ニノも来ない?」
心底楽しそうな、浮かれた顔。弾むような声。
純粋に俺を誘ってるのが分かる。だから、イヤだ。
だって、行ったら邪魔じゃない。
俺はどんな顔で二人を見てれば良いんだろ。
二人ともさ、そういう意味で好きでしょ。両想いでしょうが。
スタートラインにすら立てなかったヤツは、何をどうすればイイの。
喜べないし、嬉しくないし、面白くない。
でも、二人が大切なのは本当だよ。
本当のホントだからこそ、ね?俺は何も出来ないじゃない。
「ううん、やめとく。またね」
今日も、断って、笑った。
ひらりと手を振って背を向ける。何でもないように歩き出す。
体の中に、鉛みたいなモノを抱えて。
好きなひとの好きなひとは、俺の大切なひと。
俺の大切なひとは、俺の恋敵。闘うことさえ無かったけどね。
幸せそうにはしゃぐ声が背後から聞こえてきて辛くなる。
自分が関われない幸せに、打ちのめされる。
気付いたときには、とか。そんなんじゃない。最初から決まってた。
運命みたいに、そうなるのが当然だったんだよ。
「オメデト、潤くん」
我ながら、薄っぺらい響きだなぁ。
俺はその幸せに作用しないから、辛いんだろうね。
誰よりも幸せになってほしかったのにね。それなのに、祝えないままだ。
そんなこと、出来ることなら知らずにいたかったよ。
結末の分かりきった片想いを、ずっとしていたかった。
もう、それだって、虚しいね。