第87章 頬を抓れば、すぐに分かる 弌
松本くんの人となりは知らないけど、こういうとこ好きじゃないかな。
このひとの世話を焼いてるって聞くし、メリハリある感じは嫌いじゃないと思うけど。
濃いイケメンで料理上手で世話焼きとしか聞いてないけどねぇ。
「そもそもさぁ、何年振りだよ。あんま気乗りしねぇ」
「一人でメイクやってたじゃない、ミスコンのとき」
「そうだけど、アイツ友達多いし目が肥えてそうなんだよ」
刺身を頬張りながら、拗ねたように呟かれる言葉。
目が肥えてそうな人間が見たいと思う、それはつまり。
それが答えじゃないですか、と言いかけて、万が一を考えてやめた。
俺としては、無闇にこのひとが傷付けられるのも嫌だし。
けしかける形になったのは認めるけど、別に松本以外にも”ヒト”はいるし。
「俺が言えるのは、勢いでヤっちゃうなよってことかな」
「ヤっちゃう……?脱いだらどう見ても男だし、大丈夫」
「ま、念の為ですよ。あんた、流されちゃうとこあるから」
おぉ、そっか。なんて、ぼんやりとした返答だ。
大野さんのこういうとこが、ほっとけなくなるんだよなぁ。
長所でもあるんだけど、間違えると瑕疵になりかねないんだから。
頼みましたよ、松本。
まだ見ぬ彼へと、勝手に期待をかけてみるのだった。