第85章 君は出来ない子
もっと、と願う。
まだ駄目だ、と叱る。怒る、憤る。
こんなことも出来ないなんて、何て出来損ないだ。
そうして、自分を殺める。さて、これで何人目だったろう?
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完璧が過ぎると鼻につく。
どんくさいというのも、疎まれる。
尖りすぎてもいけない。可愛げだって必要だ。
今日も今日とて、アップデートしなきゃならない。
周囲に望まれた通りの”自分”にならなければいけない。
嘘を吐き続けて、本当を隠しきれば、ソレは真実に近いものとなる。
リップサービスに愛想笑い、偶に抜けたところを見せて。
みんなが見たがるものを演出して、披露して、安寧を手に入れるのだ。
活字の、情報の波に揉まれ、頭の中は忙しなく働く。
好きだけれど、それだけでは立ち行かない。
それでも、やるのが仕事。あぁ、儘ならない。
その瞬間には意識していなかっただろうけれど。
誰かを蹴落として、ここにいるのだ。
踏み躙って、排斥して、ここで笑っている。
その誰かというのが、偶々自分じゃなかっただけ。
当然、それはオレだったのかもしれないのだ。
運も実力の内、とは言うけど。
詮無きことを考えて、残酷だな、と思ってしまう。
他人事のように捉えている癖に、どうしてだか悲しいような気持ちにもなる。
切ないのか、虚しいのか、遣る瀬無いのか。
はてさて、元よりこの感情はホンモノなのだろうか。
作り上げたキャラクターではないのか。
否、それを証明することすら叶わないのだ。
さあ、明日もオレは××しよう。
いつ崩れるかも分からぬ、平穏の為に。
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こんなことが出来ないなんて、とんだ出来損ないだ。
まだ駄目なんだ、と憤る。怒る、腹を立てる。
もっと、と欲する。そうあらねばならないのだから。
そして、自分を殺めるのだ。
さあ、屍がもう一つ増えてしまった。ままならないなぁ。