第8章 頭打ち
side.S
理由とか、きっかけとか。
知ることで得られるものもあるだろうけど、知りたくなかった。
得るものと減るものを天秤にかけたら、きっと何かしらを悔やむと思う。
ホントは、後悔なんて無い癖に。
傍にいてほしい訳ではなかった。
ふとしたときに支えられる距離にいられたら良かった。
一番でありたい、とは願えなかった。オレには、ソレが出来ない。
付き合ってるか分からない、今の関係が重畳だと思える。
棚からぼたもち。瓢箪から駒。
手にしたものが重いと不安になる。そういうところに心底安堵してた。
朝を待たずに帰る背中に、ほんのちょっと寂しくはなるけど。
でも、それすらも、精神安定に必要なものだった。
ニノだってその程度じゃん。
そう思って、オレは自分を慰めてる。
謂れの無いことで、あいつを心の中で責めて、自分のことだけを守ってる。
耐え難い情動も、膨れ上がる欲望も無い。
そう言い聞かせては、本当の気持ちから目を背ける。
限りあるものはいつだって怖いし、どんどん束縛したくなる自分が嫌だ。
いっそ、最初に戻れば。
大真面目に考える癖に。そんなことは出来ない癖に。
そっけない文面での誘いを見て、口元が緩んでるなんて。とうの昔に自覚してる。
ニノにとって、コレは何なんだろうな?
その疑問には、見て見ぬフリをする。
飽きられるまでは、オレが飽きないうちは、ただのバカでいたかった。