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小話【気象系BL短編集】

第75章 rouge



side.S


唇にひいた紅、その鮮やかさに目を奪われる。
そんな間抜けなオレを見て、やや小馬鹿にしたように三日月型に歪んだ。



「これで満足、ですか」


あぁ、と答えた筈の声は、吐息で掻き消えたようだった。
それも道理だろう。
なんてったって、こんなにも美しいんだから。
心はとうに奪われている上に、まだまだ見惚れる余地があるなんて。

口から漏れ出たのは、感嘆だ。
恍惚と眺める莫迦な男に、カズは相変わらず冷めた視線を寄越すだけ。
つれないとこも、お前の魅力だし。コイツは自覚しててやるんだし。
だから、さして気にしない。
どうせここに留まり続けるしかないんだ。


「満足だけど、もっと、かな。まだ、あると思う」

「………はいはい、分かりましたよ。面倒だけど、ね」

「悪いな、付き合わせて」


どの口が言うの。カズは、そう呟いた。
聞こえない音量だったんだろうが、どうしてか聞こえてしまったのだ。
耳が良いのも困りものだ。知っていようとも、聞きたくはなかったのに。

彼と自分は似ている。似て非なるものだ。

見ないフリ、見えないと思い込んでたことだけれど。
オレらは分かり合うのと同じくらい、同じように分かり合えないことがある。


「お前は嫌がるだろうけど、オレはお前が好きだよ」

「人間としては、嫌いじゃないです。それだけですよ」

「それで充分」

「いっつも……あんたのソレ、治した方が良いと思う」


敬語が剥がれ落ち、カズはこれ見よがしに悪態を吐く。
耳が痛いなぁ、とは思った。
ただ、ご説ご尤も、とも思ったから意味は無い。


結局、オレは好きでいたいだけなのかもしれなかった。
相手からの好意の有無なんて、どうでもいいと考えているのかもしれない。

それは寂しいことだ。そう、他人事のように自嘲した。
十中八九、カズとはずっとそうなんだろうなぁ。

うん、さみしいな。




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