第70章 続・アジール
side.N
建物を出たら、好きなひとが立っていた。
あぁ、恋人を待ってるんだ。一目で、分かった。
分かっちゃった。
どこか冷めた表情と、ほんの少し気合の入った服。
伏せ気味の瞳は、何を映すのかな。俺ではないのは確かだ。
嫌な話だ。その上着を褒められてたことも知ってるのに。
いえ、違いますねぇ。
アナタと付き合えるのなら。付き合えたなら、何だって良かった。
”彼”になりたい。
羨ましい、妬ましい、憎らしい。けども何てことだ。
ワタシはあのひとが好きだし、尊敬してやまない。
嫌うなんて天地がひっくり返ってもありえない。
いいや、出来る道理が無い。
鼻の奥が、つんとして。
ぎゅうと唇を噛み締めていると、ぽん、と肩を叩かれた。
「帰ろ。お前、分かってんだろ?」
「分かってる。だから、俺はこうなってんだよ」
「そっか。でも、今日のとこは帰ろう」
気付けば横に立っていた、俺の救世主。
カレは忘れた方が良いとも、新しい恋を探せとも言わない。
だから一緒にいられる。いる時間を増やしたんだ。
救ってくれて。掬い上げてくれて。癒してくれて。
俺が甘やかされるなんて、何てナンセンスなんだろう!
「大野さん、お酒奢ってよ」
「えー……ヤダ。ラーメンなら奢る」
「はいはい、じゃ、それで」
軽口に付き合うリーダーは、何を考えているんでしょう?
俺が分かってるように、コレが無意味だと分かってる筈だ。
もし見逃しているとしたら、とことん利用するだろう。
だって、相手が大野さんだから。
今だけ、という詭弁を看過してくれるに違いない。
こういうのを、ヒトは依存と呼ぶのかしらね。
別に、知れたことですけど。