第6章 分からず屋
side.S
「どうしたの」
「ん?お前、こういうの好きだろ」
こんなやりとりを何度繰り返したことだろう。
あぁ、また、間違えた?
しかしながら慣れてきたのか、最初ほどの落胆は無い。
ただ、やっぱり、と思ってしまう。
長い片想いが実を結び、まず浮かんだのは絶対に離すものかってことだった。
やっとで手に入れたお前を盗られたくないと強く思ったんだ。
お前の好きなオレになろうって。
そういうオレであろうって心に決めたのに。
「翔ちゃんらしくないよ?ほら、ニノも言ってたじゃん」
ズキズキと痛む。二人きりなのに他の男の名前。
メンバーの良さを知ってるからこそ、嫉妬してばかりだって知らないだろ?
ニノにも、智くんにも、松潤にも。メンバーにだけは盗られたくない。
取り返せるか、取り戻せるか、自信が持てないから。
けど。オレも智くんに言われたな。何かあったのって。
何も無い。だから不安に押し潰されそうなんだ。
確かなものなど何一つ無いから、目には見えないから。
怯えも焦りも振払えない。恐ろしくてしょうがないんだよ。
今日だって、多分オレは間違えた。
予定を詰め込まないように頑張ってみた。
合わせることを第一に考えてた。それが、このザマ。
オレが合わせようとすればするだけ、お前はぎこちなく笑うんだよな。
「オレらしい、ね……お前はどういうのが好きなんだ?」
「翔ちゃんは翔ちゃんでしょ?そのままで良いよ」
そう言うなよ。教えろよ。答えろよ。
もうオレには分からないから、お前が応えてよ。
じゃなきゃ、本当に、分からなくなる。
そのままって何だ?それでお前が嫌わない保証は無いだろう。
「そのままね、分かった」
オレは笑った。気付いたら、笑ってた。
分かってないオレは、分からないままで。お前の隣にいるのかもしれなかった。
そうするしかないのかもしれない。
きっと、そういうことだ。
冷静に考えると背筋が凍るような心地だが、どうせオレはそうするんだろう。
お前を離さずにいられるなら、大体のことは出来てしまうと思うから。
さぁ笑え、無様な自分ごと。噴飯ものだと、心の底から。