第55章 マサラチャイとジンジャークッキー
side.A
「コレ、何。誰に付けられたの?」
オレの服の襟ぐりを広げて、キミが眉根を寄せた。
そう、その顔が見たかったんだ。
肌寒いこの頃に、どうしてこれを着てると思ったの。
消える前に見つけられて、妬いてもらう為じゃない。
「何でもイイでしょ。お前だけだもん、オレにはね?」
「相葉さん。その言い方、やめて」
きつい口調と裏腹、優しく視線を合わせてくる。
こんなときに実感する。
”怒る”じゃなくて”叱る”だよなぁって。
間近にある顔をじっと見つめてみる。
黒に近い、焦げ茶みたいな色。
吸い込まれそうな瞳に、今は真実オレ以外は映ってない。
何て幸せなんだろう。ね、知らないでしょ?
オレは確かに欲張りだけど、幸せが安く手に入るんだよ。
キミがオレを見てくれれば。自分だけを見つめてくれたら。
実際には無理だと分かってる。メンバーみんな大好きだし。
だから二人のときくらい、なんて考えちゃうんだ。
「オレ、不安にさせてる?どうしてほしいの」
キミは、そういう台詞が似合うと思うんだ。
強気なようでいて、どこまでも優しく尽くす。
そういうとこ好きだよ、と言ったら呆れてしまうかな?
なんて殊勝に考えるけど、呆れたりしないって自惚れてる。
キミは優しいから、オレのことを甘やかしてくれる。
お兄さんぶってるときは、目一杯、甘えてくれる。
やっぱり、振り回してるのかもね。
「お前でいっぱいにしろよ。簡単でしょ?」
「……こんなに愛してるのに。まだ、欲しいんだね」
きゅう、とキミの目が猫のように細くなる。
いつもより低い声は、艶があって少し怖いくらい。
背筋がぞくっとして、どうしてかオレは笑っちゃった。
あ、オレ、今日は食べられるんだなって。
期待していた通りに。ほんのちょっと、乱暴に。
「欲しいって言ったら、くれるだろ?」
「当然」
耳元で、笑いながら言った。
そうすれば、唸るような返事と同時に体が宙に浮く。
早く、はやく。待ち望んでいたモノで、満たして。
心臓が壊れそうなくらい、ドキドキしちゃう。
偶の不安は良いスパイスって本当だなぁ。
顔を見られないようにして密かにわらった。
それから、ぎゅっとしがみつく。
キミの心音も、同じようにうるさかった。