第14章 春日山
春日山城に着くまで何も問題は起こらず、逆にそれが怖いくらいだった。
心配していた馬酔いにもならず体調もすこぶる良い。
なのに城内の部屋に通されるとすぐに御殿医を呼ばれてしまう。
『謙信様、具合が悪い所はないですよ?』
『ではその首についた刀傷は何だ』
馬に乗せてもらった時か、もしくはその前なのかわからないけどバッチリ見えていたらしい。
『あ……これは数日前に小田原城で襲われてしまって。その時の傷なんです』
あの時の事は今でも思い出すと怖い。
返事をすると首の傷をじっと見ていた謙信の視線が少しだけ下にずれた。
着物の襟元をぐっと掴むと、鎖骨とその上に付けられた印が視界に入る。
(わっ!こっちにも気づいてたんだ!)
謙信は一瞬鋭く目を細めたが、印については何も言って来なかった。
(無言だと逆に怖いよ……)
『痕が残らぬ様に良い薬を用意させる。斬られたくなければしっかり診てもらえ』
少しの沈黙の後、そう言って部屋を出て行った。
(私、もしかして何か変な事言ったのかな。斬るって何なの?思ったより優しいんだけど何考えてるのか全然わからない!)
傷痕を診てもらい軟膏を受けとる。
その後、御殿医と入れ替わりで部屋にやって来たのは信玄だった。